成り上がり物語の金字塔 -『転生したらスライムだった件』
小説家になろう、通称「なろう」を読み始めて早数年が経とうとしている。
文章を書く練習、自分のための備忘録も兼ねて、色々と振り返りながら「なろう」について雑記していこうと一念発起し、このブログを立ち上げた次第である。
第一弾の記事として私が「なろう」で初めて完読した作品であり、また私を「なろう」に熱狂させた『転生したらスライムになった件』の感想を、また作品について語ることにする。
この作品との出会いは「ライトノベル売り上げスレ」であった。なにやら『転スラ』という小説が地道に売り上げを伸ばしているらしい。この作品のタイトルに私は非常に目を惹かれた。スレ住人達が言うに、どうやら無料でこの小説が読めるサイトがあるらしい。
これが私と「なろう」の出会いであった。そして活字中毒かつ生粋のアニヲタであった私は当然のようにこのサイトに傾倒、耽溺していくこととなる。
『転スラ』を読み始めてまず初めに感じたことは、やはり文章の稚拙さであった。今現在稚拙な文章を書いている自分の事を棚に上げていることは分かっているが、普段読んでいた一般小説と比べるとなると天と地ほどの差があったのだ。
しかし、読み進めるとこのライトな文体が妙に肌にあってくる。いや、魅力的なストーリーラインに夢中になり無意識のうちに盲目的になってしまっただけなのかもしれない。「面白さ」の前では文章の良し悪しなど瑣末な事なのであると実感した。
『転スラ』の主人公である男は、しがないアラサーのサラリーマンであった。当時の私は、最近の漫画やアニメが思春期10代の少年少女が主人公である作品ばかりで少し辟易していた。大人が主人公であるライトノベルというものに触れるのが殆ど初めてであった私は、この主人公が紡いでいく物語に興味を覚え、とてもワクワクしたものだ。このことは今でも覚えている。
しかし、ひょんなことから彼は路上で命を落としてしまう。そして彼はファンタジックな異世界にスライムとして転生してしまったのだ。なろうテンプレに免疫の無い私は、「なんだこの物語は」とこの時点で『転スラ』にのめり込んでいった。
最弱なスライムに転生してしまった彼だが、どうやら最強の能力を手にしていたらしい。異世界を旅していく彼は、その都度出会う魔族を次々と助けていき尊敬を集めていき、あっという間に『スライム軍団』なるものが出来ていた。主人公は魔族たちにヨイショされながらさらに勢力を広げていき、挙句の果てには国を建ててしまった。
気持ち良いほどテンポ良く進んでいく破天荒な成り上がりストーリーに私はすっかり酩酊した。スライムである主人公は美少女に変身することが出来るようになり、従順な部下達を得て国を富ませていく。なにもかもが主人公に都合の良い方向に進む。
そして彼は魔王となり、魔王界をも統べ、神に近い存在となり物語は幕を閉じる。
最後まで面白い物語で大変満足したのだが、ただひとつ、主人公の仲間が誰一人として死亡しなかったのは違和感を覚えた。作中中盤に部下である一人の女性、加えて自軍約1000人が敵に殺されてしまう場面がある。その後現場に駆け付けた主人公は、神的な力で彼女らを生き返らせてしまうのである。
確かにかなり重要ポジションであった彼女が死んでしまったときは大変悲しかったが、生き返させちゃうのはどうなんだろう、ルール違反なのでは。と当時はモヤモヤしたものだ。こういうご都合主義にも耐性が無かったのである。
今思い返すと『転スラ』という作品は、「なろうテンプレ」が数多く含まれている。もし、なろう作品に慣れた後に『転スラ』を読んだとしたら、これほどまでの感動は得られなかったことだろうと思う。数多くある作品のうちからこの作品を一番最初に読めたことは、とても幸運なことだったのかもしれない。