『水は海に向かって流れる』感想
本当に良い漫画でした。1巻から改めて読み直したので感想を書いていきたいと思います。
※ 結構大事なネタバレをしてるので、未読の方はご注意を
『水は海に向かって流れる』1巻, p66
はじめ、榊さんは直達くんのことを「いい子」と言う。咎めているような、ということは直達くんと自らとの対比から出た言葉だと思うのですが、実際のところ直達くんは本当に良い子に見える。
でもそれは少しずつ自分を後回しにすることで周りと上手くやろうとする無意識下の行動によるものだった。周りの人がそれを優しさと形容するのも、それは間違ってはいないと思うのですが、しかしウウとなってしまう。
しかもその自分を後回しにする理由が父親の不倫によって「わがままを言ったら捨てられる」と幼少期の頃強く感じたことが原因なのがまた。そして知らずのうちに蓋をしていた記憶を榊さんと出会う事で思い出してしまった。それにしても直達くんは本当に誰にも迷惑をかけないことを念頭においてある感じがあり、さらにそういった態度も本人は「自分からも相手からも逃げてるだけなんだ」と思ってるのが本当にな~・・・。
彼は無自覚に色々なものを抑え込んでいて、でも榊さんに出会ってそれに気づいて、榊さんの前で、自分は本当は怒りたかったんだと涙を流す。ここの「何にもどうならないと わかっていても 知っててほしかった 怒りたかったこと 誰かが知っていてくれるだけできっと 生きていけるんだろう」が本当に良い。終盤でリフレインされるところも含めて。
改めて読み直して思ったのは、最初は直達くん→榊さんという矢印なんだな。というか作中ずっとそんな感じか。1巻終盤あたりから榊さん側からも微弱な矢印が少しずつ伸びている感はあるんですけど(この少しずつ伸びていく感じも良い・・・)。
『水は海に向かって流れる』2巻, p92
何度も何度も躱され、それでも直達くんはめげずにアタックを続けるのであった。上記引用箇所のくだり、最終回で再び回収されるのが本当に良い・・・。
榊さんは母親に会いに行き、でも面と向かうと結局怒ってしまって、それに自己嫌悪して、でもそこには直達くんも一緒に居て、怒るのはちゃんと向き合おうとした結果で、お母さんのことが大好きだったからなのだと直達くんは分かっていて、それを直達くんがずっと覚えていくということで、半分こして、一緒に持つ。それだけのことで、10年引きずった呪いは解呪され、止まっていた時間は動きだす。
そして最後に『水は海に向かって流れる』の意が分かるようになる。最終3ページに全てが集約されていると言ってもいいんじゃないか。ア~~~、最高漫画・・・・・・。
『水は海に向かって流れる』3巻, p154