2017-09-10 :

天に轟くは闘いの宴 - 書評『終天の異世界と拳撃の騎士』


なろう備忘録第44弾。

あらすじ: 長年打ち込んできた空手に挫折しかけ、無気力な日々を過ごす高校生の少年・有海流護。ある初夏の晩、あれこれ思い悩む流護は、疎遠気味になっていた幼なじみの少女を夏祭りに誘おうと思い立つ。そうして携帯電話のメールを送り終えた彼が顔を上げると、周囲の景色が見覚えのない草原へと変化していた――。迷い込んだそこは、剣と魔法と魔物に彩られたファンタジー世界。様々な人との出会い、様々な敵との戦い。剣と魔法の飛び交う過酷な異世界を、流護は己が拳で切り抜けてゆく。その世界へ招かれた理由を、知らないままに。――拳に全てを懸ける現代日本の少年と、誇り高き異世界の少女騎士。きっと許されない出会いを果たしてしまった二人の、物語。

なってやる。 どこにも属さない、唯一絶対。最強の存在に。 だから……いつかまた、逢おう。 オレは、待ってるから。 -----5章:152話『紅の季節・後編』

「何より……、桜枝里が見とるんでな。やはり、是が非でも負けられんのう」 「俺だってベル子が見てんだ。負けられねーって」 互い、傷だらけの顔で笑い合って。身構える。 -----7章:261話.『負けられない思いの果てに』

お久しぶりです。1カ月ぶりくらいのなろう備忘録です。こんなに間空いたの初めてな気がする。最近は長編を色々10作品くらい並行して読み漁ってて、最後まで読み終える前に他の作品に浮気してしまって…みたいなのを繰り返してました。

そんで一週間前くらいに出会ったのがこの作品『終天の異世界と拳撃の騎士』。全220万文字。正統派格闘ファンタジー。前章が完結済、現在後章書きため中のこと。

正直1~2章を読んでる時は、普通の読みやすい00年代のバトルものって感じだったんですけれども、3章で思いっきり爆発しました。リューゴVSディノの燃え上るような熱いバトルで完全にこの作品の虜になった。もうほんと凄いんですこれ。丁寧に二人のバックボーンを積み上げて、どちらにも感情移入させて、まるで主人公VS裏主人公かのような様相を呈してきて、プライドを、意思を、ぶつけ合う、絶対に負けられない男と男の喧嘩なんですよ。これは。

そしてこの作品、こっからさらに面白くなっていくんです。本当に最後まで予想を超えてくるのだ。バトルものとしての最高潮は恐らくこの作品を読んだ殆どの人が7章の天轟闘宴編と答えるだろうけど(もちろん私も)、この作品の本領は実は世界観の構築や様々な設定の数々なのではないかとも思う。

まず主人公が転生した異世界が色々とおかしい。剣と魔法のファンタジー世界であるのに、日本語が公用語となっている。自動で翻訳されてるのかと思いきや、なぜか意味が通じない単語が多数ある。例えば、月。そして旧遺跡で見つかる英語で書かれた論文…。1日の周期も"なぜか"ほとんど一致している。そしておそらく物語の鍵となるであろう、重力が弱いという設定。

前章ラストまで読んだら、本当にこの作品の伏線やストーリー構成が完璧に組まれていることに気づくことが出来る。ただただ感嘆です。

そして最後に、私がこの作品を薦めるにあたって推していきたいのは、この作品が『家族』というのを真摯に真っ向から描いてくれているところなのだ。親子愛、兄妹愛、姉妹愛………この作品の描く家族愛が本当に好きなんです。5章のディノ兄妹過去編、7章のベル兄妹回想、9章の有海親子の話は、もうどうしようもないほど泣いてしまった。目頭にじわってくる感じのやつじゃなくて、本当にボロボロと泣いてしまうやつ。久々にWEB小説を読んで泣いた。

と、こんな感じの作品です。もう本当に面白いので、バトル展開が好きな方は絶対に読んでほしい。以下はいつものここが好きここが最高!って感じのチラ裏感想文です。




行き当たりばったりでだらだら書いてきます。ネタバレ全開なのでご注意を。

◆1. 主人公、アリウミリューゴという男

まずこの作品の何が好きかって、主人公のストイックさ、なんですよ。強くなるため、強いままでいるための鍛錬は欠かさないし、異世界に来てもそれは変わらない。現代日本で手痛い敗北を味わっているので自分の強さに天狗になったりもしない。ここです。この主人公、異世界に来てから結構色々活躍して、まあどんどん成り上がっていくんですけど、全然、驕らない。自分より下のものを、見下さない。

こういう風に書いてると、なんだかスカした人物に見えるかもしれないけど、違うのだ。褒められたら素直に喜ぶし、煽られたら静かに怒りを燃やす。この主人公は、普通な、等身大な、感情移入するには最適の完璧な主人公なのだ。こういう主人公って、そうそういるもんじゃないですよ。そんでまあいざバトルとなると、闘争心むき出しになるところがまた良いんです。

恋愛関係は奥手かと思いきや、内心は結構煩悩まみれだったり(このへんの描写がライトなのも厭らしさが無くて良い)普通にいきなりすぱっと告白しちゃったりするしと、このへんも好印象。この作品、恋愛要素も最高なんです。次、ヒロインについて!

◆2. 絶妙なヒロインの配置

さて、なろう小説において欠かせない、というか殆どの作品において過剰なほど配置されがちなヒロインについてです。この作品も例によって主人公に好意を抱く少女はたーくさん出てきます。でもハーレム系特有の厭らしさは全く感じない。何故だろう。

まず1つに主人公の心の中で、ただ一人のメインヒロインが決まっているという点。こういう主人公のハーレム系は大体許容できるような気がする。この前提があると、出番の差や扱いの差があまり気にならなくなるんですよね実際。そんでこの作品のメインヒロインであるベル子さんは本当完膚なきまでの良い娘なのでもう文句のつけどころがない。

そしてもう一つに、恋愛感情と親愛感情の線引き。これができてる作品は絶対的に良作が多いと思う。というかこのことは過去記事で何度も触れてるので割愛。

サブヒロインの皆さんも本当に皆個性的で最高に可愛い。

まずミア氏。背がちっちゃいいつも元気な娘。そして親に売られた可哀想な子でもある。いつも明るくて元気だけど、心には深いトラウマを負っていて。この不安定で、危うい感じ…。良い…。ミアとリューゴが会って間もないあたりで、ミアの雰囲気が一変して脅すような口調でリューゴに忠告するシーンあったじゃないですか。実はあれがミア本来の性格で、いつもの調子は演技だった、みたいな展開あったら完全に俺得なんですけど、多分無さそう。うん。どうやら書籍3巻の書き下ろし部分にミア視点の話があるらしいので、絶対に読まなくては。

クレア氏も好きなんですよね。男嫌いなツンツン系。この子の何が最高かって、結局最後まで殆どリューゴにデレなかったところ!なんですよ! 大体の作品ではこういう感じの子ってチョロインだったりするんですよね。うん、こういう子がデレると絶対に可愛いんですよね、ギャップ萌えってやつです。でもクレア氏はデレない。まあ色々あって蛇蝎の如く嫌う→まあ認めなくもない…くらいの好感度になりましたが、でもデレない。

この子には、姉の背中しか見えていないのだ。姉に置いていかれないために、ただただ修練を続ける。8章・278話『研鑽する神の盾』のクレアが本当に好きなんだ。

――もっと強く、ならなければ。 ただひたすらに、その思いを胸へと秘める。 否、秘めるだけではだめだ。自らを、確実に磨き上げなくては。

もう主人公のような風格ですよ。というかこの子、改めて考えてみると全然ヒロイン枠では無いのでは…。ただベル姉が好意を抱いているリューゴに興味を持っているだけで。いやいや後章でデレるかも…。うーむ…。デレるクレア氏が見たいような見たくないような。

あと言及したいのが雪崎桜枝里さん。この子を安易にリューゴに惚れさせず、ダイゴスとくっつけたの、本当に良い。サブキャラ同士がくっつく展開が本当に好き。

とりあえずここらで一旦。しかし、続きが気になる。ディノはどうなった…。彩花はどうなる…。桐畑良造は…。流石にこのままエタは無いだろうけど、かなり待つことになりそう。でもまあなろう読みなので待つのには慣れている。1年でも2年でも待ちますとも!