罪悪感とその救済 -『宿屋主人乃気苦労日記』
なろう備忘録第40弾。
あらすじ: 個性あふれる従業員たちの、重なり合う事情や思惑。和洋の魔術が入り乱れ、剣戟と拳が鎬を削る戦い。そんなさまざまな問題に立ち向かう主人は、そのたびに頭と体を酷使し、なおも前に進んでいく……だが一番の問題は、客の少なさである。 ――それは不思議な宿屋主人の、日々徒然なる気苦労日記。
「誰も傷つけたくない、とは言うがね、それはどうやっても上手くいきっこないのだよ姫さん。人間、誰しも誰かに迷惑をかけ、傷つけあって生きている。だからと言って動くことを止めれば、周りの人々はそれを気遣きづかって、やはり心が傷つく」 「誰かとつながりを持ったら誰だって責任を持つのさ。それは逃れる必要のない責任だがね。誰だって持っているのだから、それぞれがそれぞれに少しずつ働きかけて、互いに併あわせ持てば良い」
-----十七頁目『押し潰されそうな、自己の罪。(自己不信)』
60万字完結。中編ファンタジー。 様々な闇を抱えた訳アリな従業員達が、生きにくい世の中で、共に支え合い、時には傷付け合いながら、それでも懸命に前を向こうと、生きていこうと頑張る物語。
作品の主題は『何のために生きるのか』であろうか。まあ勿論この問いに普遍的な答えは無い訳で、実際に描かれる登場人物たちの出す答えも若干似てはいるが、皆違うもので。その過程の心理描写は見事であり、この物語の登場人物には確かな芯が存在する。
主にこの作品のストーリーの起点になるのは『罪悪感』、または『復讐心』である。自分が嫌いで、大嫌いで、罪悪感に押しつぶされそうになる彼女。復讐心でしか心の安寧が保たれなくなってしまった彼。救いが与えられる者もいるが、救いも無しに死んでいく者もいる。割と残酷なストーリーではあるが、それはある意味正しいもので。
物語構成の点ではやや荒削りに感じるところもあったけれども、登場人物の人となり、そして彼らの"言葉"が良いのだ。間違いなく良い作品であったと、そう感じます。