信頼こそが何よりも -『ロスト=ストーリーは斯く綴れり』
なろう備忘録第25弾。
今回は『ロスト=ストーリーは斯く綴れり』について書いていきます。
魅力的なキャラクター達、隙が無いストーリー構成。シリアス一辺倒な作品かと思いきや、明るく喧しいキャラクターが緩和剤となっていたりと、丁度良いバランスを保っている作品でした。そして、確実に今まで読んできた中で五指に入るレベルの面白さでありました。
以下、ネタバレ満載の感想垂れ流しです。 kindleメモに残してある文章を参考にしつつ色々雑記していきます。
この大学にいる誰しもが魔物を抱いている。自分以外には決して懐かない魔物を。 ---第2章 研究者の憂鬱 (2) より
まず惹かれたのがこの『魔術大学』という舞台設定でした。とある論文の執筆が目的であるこの主人公には、個人的に似た境遇だったこともありかなり感情移入できました。常に冷静沈着な性格もとても好ましかった。
そしてこの作品のウェンブリー編の一番の魅力は、この魔物を抱いている底の見えないキャラクター達だと私は声を大にして主張したい。こういう子たちが素直に露わにする感情が本当に好きすぎるんですよね。特にクレールが良かった。針を纏っていた彼女が見せる弱い部分に、彼女の本来の人となりを見て、一瞬で彼女に感情移入している私がいた。そして彼女を助けるロス君の行動原理がまた最高で。
「1階のランプに毎日火が灯ってるんだ。俺が帰った時間に」 ---第4章 偉大なる詐術者(5) より
これまで冷徹な印象だったロス君がこんな温かい言葉を発することに軽く感動を覚え、そして益々この主人公が好きになった。クレール論文騒動の結末も爽快なものであったし、そこで彼女が見せた本音と正直な感情の発露には、身も心も浄化される思いでした。このあたりでこの作品に没頭してしまったように思う。
そしてウェンブリー編のラストシーン。
生き延びる為に必死になって耐えてきた少年は、その日。 「デ・ラ・ペーニャで一番の料理人と、献身的で誠実な魅力いっぱいのウエイトレスが、貴方のお帰りをお待ちしております」 生まれて初めて―――――故郷を得た。 ---第6章 少年は斯く綴れり (25) より
本ッ当に最高の締めでした。読み終えたあと余りの最高さに暫く茫然自失の状態だった。献身的で誠実な~のくだりがロス君のクレール評と全く同じなのもグッと来る。このラストシーンが素晴らしすぎた影響で、マラカナン編の序盤はあまり物語に没頭できなかった。大学編の周りのキャラクターに慣れすぎて、マルテや四方教会の面々達にあまり感情移入できなかった。しかし..。
つまりは、『一度慣れ親しんだ相手との、再結成』。
そんなこんなで、アウロスは三度、粘着質な情報網を得た。 ---第7章 革命児と魔術士の王 (20) より
ラディの再登場で見事に再燃しました。もうこの再会シーンは最高にアガった。正直、彼女が作中で一番好きなキャラクターと言っても差し支えない。ルインの正妻感も好きだけど、なんだかんだ最後までロス君と付かず離れずの関係性だったラディが本当に好きだった。9章ラストシーンで描かれたロス君、ルイン、ラディの三角関係(?)の清算も良かったです。色恋沙汰に無頓着だったロス君がまさかここまではっきりとけじめをつけるとは思っていなかったけど、彼らしい誠実な形での決着はストンと腑に落ちるものでした。
その後のエピローグで、結局いつものようにじゃれ合ってしまう二人には、思わず苦笑が漏れそうになりながらも、それでもやはり二人にはいつまでもそのような関係でいてほしいなと思ってしまったり。ロス君とルインは間違いなくお似合いの2人だと思うけど、元気一杯なラディもまたロス君に必要な人物だと思うんですよね。彼がラディを『相棒』と称した時は本当に胸が熱くなったものです。
さて、序盤はあまり良い印象を抱かなかった四方教会の面々ですが、マラカナン編も終盤に近づいてきたあたりから加速度的に好きになっていきました。この段々とキャラクターの生い立ちや人となりが明らかになっていく手法がこの作品、本当に卓越しています。過去回想での四方教会結成時のデウスの台詞は胸に来ました。
「いいかお前等、自覚を持っておけよ。四方教会の『四』はお前等四人の事だ。お前等全員が――――」 ---第9章 アウロス=エルガーデン【下】(69)より
このくだりは本当に熱かった。デウスの思いが、四方教会4人の思いが爆発したシーンで最高に燃えた。 マルテやフレアも終盤には良いキャラクターに成長している。マルテがフレアを誘うシーンはロス君と同じく、ほほえましい気持ちになってしまった。
以上です。掛け値なしに最高の作品でした。本当に良かった。