過酷な異世界を旅する -『用務員さんは勇者じゃありませんので』
備忘録第5弾。
今回感想をつらつらと書いていくのは『用務員さんは勇者じゃありませんので』という作品です。レビューサイトにて「主人公に厳しい」「過酷な異世界」なんていうコメントがあったので気になって読んでみた。 俺tuee作品も嫌いじゃあないんだけど、主人公に次々と苦難が降りかかり、それを乗り越えて成長していくような物語はやはり王道ながら良いと思うのだ。
さて、物語は主人公である用務員さんがクラス転移に巻き込まれてしまうところから始まる。訳の分からない世界に転移してしまった用務員さんは、混乱してるうちにクラスの悪ガキに『神によって与えられたギフト』を奪われてしまう。 かくして用務員さんはほとんど裸一貫の状態で異世界に取り残されてしまった。そして用務員さんは王都を出て、大自然の中に隠居することになる。
プロローグからしてこの厳しさである。
しかし、この用務員さん、精神面や身体面において意外と強い人であった。(書籍版のイラストでは屈強なソビエト軍人みたくなっている) 自然の中に適応していき真っ白いと雪豹と一緒に洞窟に居を構え、それなりに日々を謳歌していた。この雪豹がこの作品のメインヒロインである。「かわいさ」と「かっこよさ」を両備えたハイブリッドヒロインだ。安易に擬人化に走らないところが硬派で好感が持てる。
時系列がいくらか流れたある日、その洞窟にクラスの女子生徒がやってくる。このあたりの主人公が徐々に感情を取り戻していく感じの描写が好きだ。その後なんやかんやあって、結果用務員さんはさらにクラスの一部生徒達と因縁を深めることになってしまう。
1章ラストシーンは本当にすごかった。重なり重なる憎悪、どうしようもない結末。そして、引き留める生徒たちの言葉をすべて無視して血を流し足を引きずり名がら何処かに去っていく主人公。ただ一匹彼に献身に追従する雪豹の姿がほんとうに尊い。
その後用務員さんは色々な場所へ旅をして物語を紡いでいくわけだが、徹頭徹尾「なろうテンプレ感」がない。ハーレムなんてもってのほか、彼と常に一緒にいるのは動物だけである。いやしかし彼女らも本当に可愛いのだが。
それぞれの章の物語の雰囲気は総じて明るいものではない。 2章はバツイチの女奴隷を買う話、3章は故郷を捨ててしまった売春婦の女と怪盗スケルトンの話、4章は金が必要な芸妓さんの話と、この通り暗い題材が多いが、案外こういうストーリーが魅力的に映るという人もいるのではなかろうか。かくいう私もその一人である。 ひとつひとつの章が物語として完成されているところも良い。
そしてこの作品のエグいところが、どの話も完全なハッピーエンドでは終わらないところだ。全体的に救いのあるバッドエンドという感じ。しかしまあ、私はかなりのハッピーエンド至上主義者なのだが、特に忌避感なく読めたのでそう構える必要はないと思われる。
個人的に一番すきなところは3章前編のラストシーンだ。あの絶望的な展開からの、静かな、儚く切ない救いの描写はさすがに涙を禁じえなかった。ここまで美しいバッドエンドがあるのかと読み終わった後しばらく放心していた。
今顧みると、こういうテンプレ外の作品はある程度なろうに慣れてきてから読んだほうがなおいっそう楽しめたかもしれない。